家庭教師 由乃の場合

 

 

「……ちゅうわけで、私が家庭教師よ。なんか文句ある?」


これでもかと言うほどにやる気の感じられない声で、私の家庭教師を務めるのは私のお婆ちゃん。


いや、お婆ちゃんと言っても、本物のお婆ちゃんではない。


正確に言うなら、私の姉、支倉令の姉、鳥居江利子さまなのだ。

「文句はありませんけど、また、急になんでですか?」


本当のところ、文句ならいくらでも出てくるのだが、それを言ったところで、この状況は変わらない。


むしろ江利子さまを焚きつけるだけなのだから、ここは我慢しておくのが得策だ。


いくら私がイケイケGOGO、爆走由乃とはいえ、分の悪い勝負はなるべく避けたいというのが本音だ。


「なんでって……、聖が祐巳ちゃんとこ行って、楽しかったらしいから。……そんだけよ。」


”そんだけよ”って、よくもまぁ、いけしゃぁしゃぁと、このでこちんは……!


江利子さまの態度に、殺意が浮き上がってくるが、ここは辛抱、辛抱。


忍者の忍はしのぶの意!


私はなんとか、口から罵詈雑言が飛び出してくるのを耐え忍ぶと、ひきつった笑顔で江利子様を自室へと案内したのだった。

 

 

 

「みかん。」


江利子さまは私の部屋に着くなり、こたつに潜り込んでしまった。


肩まで入り込んだ江利子さまは、こたつの天板上のみかんを自力で取るのすら面倒なのか、ただ単語のみで、私にみかんを取らせようとさせる。


由乃、ダメよ、ここは耐えなきゃ!


私は、机に向かい勉強をしてるフリをすると、聞こえないフリでごまかすことにしたのであった。

 

 

 


「……みかん。」


あーもう、やかましいんじゃ、このでこっパゲ!


先ほどから何度、暴言を飲み込んだであろうか。


もう私のおなかは、でこという単語でおなか一杯なんじゃないだろうか、そんな気がしていた。


「………、令。」


へ?


今、みかんって言わなかった。


それどころか、私の令ちゃんの名前を呼んだの?


気が気でじゃなくなり、私は振り返り、江利子さまの方を見やった。


「ウフフ、やっとこっち向いたわね。」


勝ち誇ったように笑う江利子さま。


しまった! やられたか!


無性に腹が立つのを押さえながら、再び机に向かおうとすると、


「ちょっと令、呼んできて。重要な用なの。」


先ほどまでの江利子さまの、やる気のない声とは違い、真剣な声で私に呼びかけたのだった。

 

 

 

江利子さまの意図が全くの見込めなかったけど、私は真剣な様子の江利子さまに騙され、令ちゃんを呼びに行った。


令ちゃんもテスト勉強してたけど、江利子さまが呼んでるって言ったら、勉強を即中断して着いて来てくれた。

なんかムカつく。


明日は令ちゃんに、なにか意地悪しよう。

 

 

 

「お姉さま、何か重要な用とか。」


私の部屋に入るなり、令ちゃんはこたつに横たわる江利子さまに話しかける。


ひょっとして、また虫歯にでもなりましたか?


もしかして妊娠なさいましたか?


そんな心配げな表情の令ちゃんを見ると、令ちゃんは優しい人だなぁとも思う。


そして、それ以上に令ちゃんはおバカさんなんだと思う。

「令……。」


江利子さまは、真剣な眼差しと声で、令ちゃんの名前を呼ぶ。


何を言い出すんだろう。


すごい深刻な話か?


その時は騙されたけど、その時は本気で江利子さまが、とてつもないことを言い出すのではないかと思ったのだ。


「お姉さま、どうなさいました?」


令ちゃんは、特に真顔で江利子さまの顔を覗き込んでいる。


そこで、


「みかん」
「はい?」
「みかん」
「みかん……ですか?」


令ちゃんはこたつの上からみかんを取り出すと、江利子さまに近づける。


「うん、ご苦労。帰っていいよ〜。」


江利子さまは令ちゃんの手からみかんを取り上げると、幸せそうにみかんをほうばったのでした。

 

 

 

「江利子さま、家庭教師にこられたのでしたら、私の勉強手伝ってくださいませんか?」


遂に私は我慢ができなくなって、こたつの江利子さまに疑問を投げかけた。


「ん、そういえば……、そんな気もするわぁ……。」


なにが”そんな気もするわぁ”だ。このデコ薔薇が!


もうダメ、我慢の限界。


このままでは改造手術によってとりつけられた由乃リミッターが切れてしまう。


そうなったら、いったいどれほどの被害が出るのだろう。


私は、この部屋の様々なものを投げつけることになるのを覚悟した。

 

 

 

そんなとき、


「明日は数学だったわよね。私が問題出してあげるから、それを解きなさい。それが解けたらあなたは100点よ。」


江利子さまは気づかないうちにこたつを抜け出すと、私に紙切れを一枚残して、私の家を去っていった。

そこに残されていた問題とは、

 

 

 

60人にアンケートを取りました。
祐巳ちゃんが好きな人は50人。由乃ちゃんが好きな人は30人。
2人とも好きではないと答えたのは8人。

 

さあ、由乃ちゃんだけ好きな人は何人かな?

 

続く

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送